マウスピース矯正で歯が動く仕組みと適応症
ここ数年、新しい矯正のスタイルとしてマウスピース矯正が脚光を浴びています。様々な会社からマウスピース矯正のシステムが出されており、従来の矯正に比べると目立たない、装置のわずらわしさが少ない、比較的安価であるなどの利点があります。
一方でマウスピース矯正が適さない症例があること、途中でワイヤー矯正を必要とする場合があることなどは、あまり知られていないようです。
この記事では、マウスピース矯正の原理や適応症などについて解説します。
この記事を読むことで、マウスピース矯正で歯が動く仕組みや適応となる症例などを理解でき、下記のような疑問や悩みを解決します。
こんな疑問を解消!
- マウスピース矯正の原理
- 歯列矯正で歯が動く仕組み
- マウスピース矯正が適応となる症例
- マウスピース矯正が向かない症例
- マウスピース矯正とワイヤー矯正を組み合わせる症例
マウスピース矯正の原理
マウスピース矯正とはどのようなもので、ワイヤー矯正とは何が違うのでしょうか?
マウスピース矯正では、歯型取りから起こした模型を基に、コンピューター上で最終的な仕上がりの状態とそこに至るまでの過程をシミュレートし、そのシミュレーションの結果にあわせたマウスピースをおおむね20〜40個ほど作ります。
治療中はそのマウスピースを決められた期間ずつ順次装着していくものになります。
マウスピースは、食事と歯磨きのとき以外は、基本的には装着し続けることになります。
取り外しにより一日の中で矯正力がかからない時間が発生することと、途中で何らかの理由により治療計画の変更が必要になった場合は、再び歯型取りをしてマウスピースを新規に作り直す必要があることがワイヤー矯正との大きな違いになります。
歯列矯正で歯が動く仕組み
ワイヤー矯正でもマウスピース矯正でも歯が動く原理は変わりません。
歯は持続的に適正な力が加えられると、押される側の歯を支える骨が吸収し、それによりできたスペースに歯が移動します。その逆側では歯の周りに骨がある状態を維持しようと新しく骨が作られます。
矯正はこの現象を利用して歯を動かします。
ワイヤー矯正では歯に取り付けた装置(ブラケット)にワイヤーを通し、そのワイヤーに加えられた曲げや捻りがブラケットを介して、歯に持続的に力を伝えることで歯が動きます。
マウスピース矯正では、マウスピースと歯とのわずかなズレを利用して歯に持続的な力を加えることで歯を動かします。
同じ原理を利用しながらも力の加え方が異なるため、ワイヤー矯正とマウスピース矯正では歯の動き方に違いがあり、それが以下に見る適応症・非適応症や術式の併用と関係します。
マウスピース矯正の適応症
それでは、マウスピース矯正はどのようなケースが適応症となるのでしょうか?
ローテーション(捻転)の改善
歯が時計回りや反時計回りに生える向きが捻れてしまっている状態を捻転と呼びます。
この場合、歯に回転の力を加えて本来の向きに治すことになり、マウスピース矯正で対応可能です。
歯列の拡大や縮小
歯の並びを歯列と呼び、その広さは骨の形や歯の生える向きが内向きか外開きかといった要素によって決まります。
マウスピース矯正では、歯の傾斜を変えることにより歯列の拡大や縮小を行えます。
ただし、歯列の拡大が前歯で行われるといわゆる出っ歯の傾向を強めることにもなり、奥歯では咬み合わせにも影響するため、どの程度できるかは個々の状態によります。
小さな空隙閉鎖
歯と歯の隙間のことを空隙と呼びますが、いわゆる「すきっ歯」のうち、程度の弱いものや部分的に歯の間が少し開いてしまっている場合であればマウスピース矯正で対応可能です。
マウスピース矯正における歯の動きは、基本的には傾斜移動と呼ばれる歯の傾きの変化によるものになり、その移動量には限界があります。
そのため、総移動量がおおむね4mmを超えない範囲までが適応の目安となります。
圧下
歯の移動のうち、歯を根の方向に押し込む移動様式を圧下と呼びます。
他の歯に比べ出過ぎてしまった歯の高さを揃えるための動きになります。
軽度な上下顎間関係の不調和
上顎と下顎の互いの位置関係を上下顎間関係といい、矯正治療の目的のひとつにはこの顎間関係の改善があります。
その程度は様々な要素により評価されるため簡単な基準をここでお示しすることはできませんが、診査の上、マウスピース矯正で対応可能と判断される場合には適応となります。
マウスピース矯正の非適応症
それでは、マウスピース矯正ができない、またはやらない方がいい場合にはどのようなものがあるでしょうか?
大きな空隙閉鎖(抜歯症例など4mm以上の空隙)
成人の矯正ではそのままでは歯を並べられるスペースが不足しているため、抜歯をしてスペースを作って歯を並べることがあります。また、歯に対して顎が大きすぎて全体的にすきっ歯になってしまっている場合もあります。
そのような場合では、歯の傾斜を主体とした移動では目的を達成できなかったり、かえって咬み合わせがおかしくなってしまうことがあります。
そのため、抜歯を伴うような矯正や空隙が大きく総合的な移動量が大きい場合はマウスピース矯正の適応にはならず、ワイヤー矯正で対応することになります。
骨格性の矯正治療
上顎骨と下顎骨のサイズに差がありすぎて、いわゆる「出っ歯(上顎前突)」や「受け口(下顎前突)」になっている場合はマウスピース矯正では対応できません。また、このような場合はワイヤー矯正のみでも対応できません。
顎矯正と呼ばれる骨のサイズの不調和を修正する手術を伴う矯正が適応となります。
この手術の前後でも矯正を行いますが、その場合はワイヤー矯正が用いられ、マウスピース矯正は行うことができません。
重度のアンギュレーション
アンギュレーションとは「回転を中心とした歯の近遠心的移動」という意味であり、言い換えると「歯を手前または奥の方向に傾けるまたは起こす動き」のこととなります。
ある程度までならマウスピース矯正でも対応できますが、重度のものはワイヤー矯正が必要になります。
歯牙の平行移動(歯体移動)
矯正での歯の移動にはいくつか種類がありますが、その中でも歯の傾きを変えずに平行に動かすものを歯体移動と呼びます。
マウスピース矯正での歯の移動様式は傾斜移動が主であり、歯の傾きを変えて行う移動です。
アタッチメントを使用することで歯体移動も可能とするものもありますが、理想的な移動とはならないこともあり、積極的に狙いにいくものではありません。
また、歯体移動が必要とされる場合は先に書いた大きな空隙閉鎖が必要な場合であることも多く、その意味でも基本的には適応とならないとしてよいでしょう。
上下の緊密な咬合構築
上下の緊密な咬み合わせを作ることは矯正の重要な目的のひとつです。
ある程度、咬み合わせがしっかりしていて、部分的な修正を行うだけでよい場合などはマウスピース矯正でも対応できますが、矯正で咬み合わせを作り直すような場合にはワイヤー矯正が適しています。
ワイヤー矯正との組み合わせ
マウスピース矯正の適応症、非適応症を見てきました。
意外とできることが少ないのでは?と思われたかもしれませんが、これはあくまでマウスピース矯正単独で行う場合となります。
マウスピース矯正では行えないとされるケースであっても、ワイヤー矯正である程度まで治療を進め、マウスピース矯正で対応できるところになったらマウスピース矯正に切り替えるということが可能なことがあります。
【まとめ】マウスピース矯正で歯が動く仕組みと適応症
マウスピース矯正の原理や歯が動く仕組み、マウスピース矯正の適応症や非適応症などを解説しました。
この記事では、下記のようなことが分かったのではないでしょうか。
ここがポイント!
- マウスピース矯正では、コンピュータのシミュレート結果に合わせてマウスピースを20~40個ほど作成し、定期的に順次交換していく
- 歯列矯正では、歯に持続的な力を加えて歯の周りにある骨の吸収、再生を促し歯を移動させる
- マウスピース矯正の適応となるのは、捻転の改善、歯列の拡大や縮小、程度の弱い空隙閉鎖、圧下、比較的軽度な上下顎間関係の不調和など
- マウスピース矯正の適応となりにくいのは、抜歯をともなう矯正や総合的な移動量が大きい空隙閉鎖、顎矯正が必要な症例、重度のアンギュレーション、歯体移動、上下の緊密な咬合構築など
- ワイヤー矯正で治療を進めた後、マウスピース矯正に切り替え可能な場合もある
マウスピース矯正は、適応・非適応の見極めが重要な矯正手段といえますが、見た目には矯正をしているとわからない目立たなさやワイヤーやブラケットが無いことで、矯正中の口腔ケアがしやすいというワイヤー矯正にはないメリットもあります。
一方で、受診不要を謳い予定通りの結果が得られずトラブルになるケースや、非専門家の施術でリカバリーが必要になるケースも報告されています。そのためマウスピース矯正を検討されている方は、まずは矯正歯科にて正確な診査をしてもらうことをおすすめします。
南青山矯正歯科クリニックでは、常勤の女性歯科医師がマウスピース矯正だけでなく、ワイヤー矯正にも対応しており、極力、治療によって担当医が変わらない体制で歯科治療を提供しております。