矯正におけるディスキング(IPR)とは?必要となる症例やタイミング
歯列矯正治療では、歯を削って隙間を作る「ディスキング」という処置を行うことがあります。
矯正治療で歯を削るイメージはあまりないかもしれませんが、インビザラインなどのマウスピース矯正でも意外に多く、ワイヤー矯正では意外とポピュラーの処置です。
それでは、どのような場合にディスキングが必要になるのでしょうか。
この記事では、歯列矯正で歯を削る「ディスキング(IPR)」の意義や方法などについて解説します。
この記事を読むことで、ディスキングの処置内容や目的・効果、行うタイミングなどを理解でき、下記のような疑問や悩みを解決します。
こんな疑問を解消!
- 歯列矯正におけるディスキングとはどのような処置なのか
- ディスキングの目的と行うタイミング
- ディスキングの方法
- ディスキングで仕上がりのクオリティがアップする症例
ディスキング(IPR)とは?
ディスキング(IPR=Interproximal Reduction(隣接歯間の削合))とは、歯の隣り合う歯との接触面(隣接面)を削って歯と歯の隙間を作ることをいい、矯正治療の一環で行われる処置になります。
同じ内容の言葉でストリッピングというものもあります。
マウスピース矯正、ワイヤー矯正どちらでも行うことがあります。
削るのはエナメル質に限定されるため、ディスキングをすることにより、歯がしみたりすることはありません。
何のためにディスキングをする?
歯を削ることとは関係のなさそうな矯正治療でなぜディスキングをするのでしょうか?
歯を並べるスペースを作る
矯正治療では乱れた歯並びをきれいに整えるために、歯を並べられるスペースを作る必要があります。
スペースの作り方には歯列拡大、抜歯、歯軸の変更などいくつかの方法がありますが、そのうちのひとつがディスキングです。
ディスキングで得られるスペースは、歯列拡大や抜歯に比べると少ないですが、それでもスペース的には十分な場合や、非抜歯の歯列拡大でスペース確保をすると出っ歯になってしまう場合、抜歯してもなお少し不足するスペースを補う場合などに用いられます。
マウスピース矯正単独で行う場合は抜歯を伴わないことが多く、スペース確保のためにディスキングを行うことが多くあります。
スペース確保のためのディスキングは矯正治療開始前や開始後の早いタイミングで行われます。
ディスキングでは通常1歯あたり0.5㎜(片側0.25㎜)ほどのわずかなスペースが得られます。
これを右犬歯から左犬歯まで(6歯)や右第二小臼歯から左第二小臼歯まで(10歯)といったように何歯分にもわたって行うことで、累積で約4㎜(抜歯1歯分相当)のスペースを得ることになります。
歯の幅のバランスを整える
ディスキングのもうひとつの目的として、歯の幅を意図的に変えることでバランスを整えるというものがあります。
人間の歯は、同じ種類の歯は奥になるほど小さくなるという性質(退化傾向)があります。
たとえば、前歯では真ん中の歯(中切歯)よりひとつ隣の歯(側切歯)のほうが少し小さくなり、口元の美しいプロポーションに関わっています。しかし、この差が大きくなりすぎると歯並びは整っていても中切歯だけが目立ってしまい、うさぎの前歯のような、出っ歯の印象が出てしまいます。
このようなとき、ディスキングで中切歯の幅を狭くすることでバランスを整えて自然な印象にすることがあります。また、上下の歯のバランスを整えるのにもディスキングで対応することや、歯の長さと幅の比を変えるためにディスキングをすることがあります。バランス調整のためのディスキングは矯正治療の最後の方で行われることが多くなります。
ディスキングの方法
ディスキングは歯の隣接面を削ります。
歯を削るというとエアータービンなどの回転切削器具(よくドリルと言われます)を使うイメージがありますが、ディスキングでは専用のヤスリのようなものを使い、回転切削器具は使いません。まず、現在の歯と歯の間がどれくらい空いているかを隙間の量を測る専用のツールを隣接面に挿入して確認します。
歯と歯の間に隙間がある場合は、ディスキングでできた隙間と元々あった隙間がわからなくなってしまうので、後で予定通りのディスキングが行えたか確認できるようにする必要があります。
次に、隣接面にディスキング用ツールを挿入し、ヤスリをかけるようにしてエナメル質を削っていきます。
エアータービンなどの回転切削器具と似たような器具を使うことはありますが、鋸引きのような動きをする特殊な器具で、キーンという音はありません。
ある程度削ったら初めに使った計測ツールを挿入し、予定通りの隙間が得られているか確認します。
予定通りの隙間が得られていたら、削除した隣接面の研磨をします。
隙間を確保するために削った直後はエナメル質の表面は荒れてざらついています。このままだと着色や汚れがつきやすく、虫歯のリスクも高いので、研磨用ツールを使ってなめらかに仕上げます。
ブラックトライアングルの改善にも
ディスキングの別の使い方として、ブラックトライアングルの改善のために行うことがあります。
ブラックトライアングルとは
ブラックトライアングルとは、歯と歯の間の歯肉(歯間乳頭)が失われてしまい、歯の接点を頂点とし歯肉を底辺とした三角形(トライアングル)の隙間があいた状態をいいます。
この隙間が口の中では暗く(黒く)見えるのでブラックトライアングルといいます。
ブラックトライアングルはなぜ生じるか
ブラックトライアングルは、歯間乳頭が失われることで生じます。
この歯間乳頭の喪失には、歯周病の進行や治療、不適切なフロスや歯間ブラシの使用などによる歯肉退縮、矯正を含む歯の移動による歯の接点の喪失などいくつもの原因があります。
大きくまとめると、歯間乳頭を下から支える歯槽骨の吸収と横から支える歯と歯の距離の変化が原因とも言えます。
ブラックトライアングルの治療法
ブラックトライアングルの治療は歯間乳頭をもう一度作り直す(再建)か、歯間乳頭が失われた状態が目立たないようにするかになります。
歯間乳頭が維持される条件には、前歯部では歯槽骨の頂点から5㎜以内に歯と歯の接点があること、歯根と歯根の距離が一定以下であることなどがあります。
ブラックトライアングルの治療では歯間乳頭が存在していた時に近い条件を作ることで歯間乳頭を再建する方法をとることが多くなります。
つまり、被せものや詰めもので歯の接点の位置や張り出しの程度を変えて歯間乳頭が維持できる条件を整えることで新しい歯間乳頭ができるように促す治療法です。条件を満たすために歯を削って被せものを入れたりする必要があります。
ディスキングによるブラックトライアングルの治療
上記以外の方法として、ディスキングを用いる方法があります。
ディスキングの際に削り方を調整することで接点の位置を調整することができ、ディスキング後の矯正で歯根と歯根の距離が縮まることで、歯間乳頭を維持できる条件を満たせるようになるというものです。
被せものを用いた方法に比べると歯の削除量が少なく済み、各ケースによりますが、矯正治療の最後の仕上げに組み込むことも可能です。
【まとめ】矯正におけるディスキング(IPR)とは?必要となる症例やタイミング
歯列矯正におけるディスキングの目的や効果、行うタイミングなどを解説しました。
この記事では、下記のようなことが分かったのではないでしょうか。
ここがポイント!
- ディスキングとは、歯と歯の接触面(隣接面)を削って隙間を作る処置のこと
- スペース確保のためのディスキングは、矯正治療開始前や開始後の早いタイミングで行われる
- 歯の幅を調節するためのディスキングは、矯正治療の最後の方で行われることが多い
- ディスキングでは、専用のヤスリのようなツールでエナメル質のみを削った後、研磨用ツールでなめらかに仕上げる
- ブラックトライアングルの治療のために、ディスキングを矯正治療の最後の仕上げに組み込むこともある
歯列矯正でよく登場するディスキング(IPR)は、矯正治療のためのスペース確保だけでなく、仕上がりのクオリティアップにも使われることがある処置です。特に非抜歯矯正のケースでは、このような方法もあることを知っておくといいですね。
南青山矯正歯科クリニックでは、歯列矯正で「歯を削る」と聞くと驚かれる方も多いですが、歯列矯正治療の開始前にしっかりと説明してご納得いただいたうえで、ディスキングを行なっております。いきなり歯を削るといったことは行いませんので、ご安心ください。