歯茎が下がる歯肉退縮の原因と治療法
歯の違和感やしみる感じがあり、よく見てみたら「歯茎が下がっていた…」ということがあります。
このように歯茎が下がることを「歯肉退縮」と呼びますが、何が原因でどのような影響があるのかを正確に知っている方は多くないようです。
この記事では、歯肉退縮の原因や治療などを解説します。
この記事を読むことで、歯肉退縮で生じうる症状や主な原因、治療法などを理解でき、下記のような疑問や悩みを解決します。
こんな疑問を解消!
- 歯肉退縮とはどのようなものなのか
- 歯肉退縮は口腔内や見た目にどのような影響をおよぼすのか
- 歯肉退縮の主な原因
- 歯肉退縮を改善する方法
歯肉退縮とは
歯肉退縮とは、歯茎の肉(辺縁歯肉)の位置が歯根側に移動し、歯根が露出した状態のことをいいます。辺縁歯肉の位置が変わっても、口腔内に見えている部分がエナメル質に限定されているうちは歯肉退縮とは呼びません。
歯肉退縮するとどうなる?
歯肉退縮はそれ自体が重大な疾患というものではありませんが、さまざまな影響があります。
知覚過敏
歯肉退縮した歯は歯根が露出した状態になっています。
歯根はセメント質という薄い層で覆われていますが、セメント質は歯の構成要素としては強度が低く、日々のブラッシングで失われたり、歯根の露出が自覚されたときには既に失われていたりします。
セメント質の下には象牙質があり、象牙質には無数の細かい管があいており、その中に歯髄(歯の神経)から神経細胞が一本一本伸びているといわれています。
歯肉退縮すると、この象牙質の中にある歯の神経細胞が口腔内に露出した状態となり、ここに水や風、歯ブラシなどの刺激が加わるとしみる症状(知覚過敏)を引き起こします。
根面う蝕
歯肉退縮した歯根は、知覚過敏を引き起こすだけでなくう蝕(虫歯)にも弱くなります。露出した歯根面に発生したう蝕を根面う蝕と呼びます。 象牙質は構造上、エナメル質よりう蝕が進行しやすいことや、後述の清掃性の低下が原因となります。若い人ではあまり見かけるものではありませんが、年齢が上がるとリスクが高まります。
清掃性の低下
歯肉退縮はすべての歯で同じように発生するわけではなく、1歯ごとにさまざまな程度で発生します。その結果、歯によって歯肉の高さに差が出てきます。
歯肉の高さに差が出てくると、ブラッシングの際に特に歯と歯肉の境に磨き残しができやすくなります。
また、露出した歯根面にはWSDやNCCLと呼ばれる「えぐれ」が発生することが多く見られ、このえぐれはプラーク(菌のかたまり)を留めやすいスポットとなります。
このように、歯肉退縮した歯は歯肉の高さの差や歯根の「えぐれ」により歯としての清掃性が低下し、根面う蝕の発生や歯周病の進行に影響します。
審美障害
歯肉退縮により露出した歯根は見た目にも影響します。
歯根が露出すると歯が長くなったような印象を受けるようになります。
歯根の色は生活歯(神経の生きている歯)では黄色系の、失活歯(神経が死んでいる歯)では暗褐色の、黒っぽい色に変色します。
歯肉退縮が特に前歯部で発生すると、このような歯冠を構成するエナメル質や補綴物(かぶせもの)と色調が異なる歯根が外から見えることがあります。
そうすると、前歯の色の違う部分が気になってしまう、気になってあまりしっかり笑えないといったことがあります。
歯肉退縮の原因
歯肉退縮による影響を見てきましたが、では、このような影響のある歯肉退縮はなぜ発生してしまうのでしょうか?
歯周病
歯周病は、歯肉退縮の原因として頻度の高いものです。歯周病は、歯肉など歯周組織の炎症により歯槽骨(歯を支える骨)が溶けていく病気です。
正常な歯肉と歯槽骨は互いに一定の距離を保つようになっています。つまり、歯周病により歯槽骨が溶けて歯槽骨の高さが減ると、それに合わせて歯肉の位置も下がります。
歯周病では歯肉が炎症により腫れており、治療によって歯肉の炎症が改善されて引き締まるとそれまで見えていなかった歯根が見えてくることがあります。
一見すると歯周病の治療により歯肉退縮したように感じますが、実は治療前に既にそこまで歯肉退縮が起きていたことを意味します。
放置すればさらに歯肉退縮が進行するため、歯周病による歯肉退縮では早めの治療をおすすめします。
過度のブラッシング圧
歯周病による歯肉退縮と同じくブラッシングを原因とすると思われる歯肉退縮もよく見かけます。
う蝕や歯周病の予防を意識して入念に磨くのは非常に良いことなのですが、磨き方やブラッシング圧によっては歯肉にダメージを与えてしまい、かえって歯肉退縮の原因を作ってしまうことがあります。
適正なブラッシング方法やブラッシング圧については、歯科を受診して歯科衛生士からブラッシング指導を受けるのが良いでしょう。
不適切な歯間清掃器具の取り扱い
ブラッシング方法や圧と同じく、フロスや歯間ブラシといった器具の不適切な取り扱いが原因の歯肉退縮もよく見かけます。
フロスを歯面に沿わせず通したり、きつい歯間に無理やり歯間ブラシを通したりすることで歯肉が傷つき、それが日々繰り返されることで歯肉がダメージから逃げるように退縮していきます。
歯間清掃器具は、必要な部位に適切に使用することが重要です。これも歯科衛生士からの指導を受けることがおすすめです。
歯列矯正
歯列矯正でも歯肉退縮は起きます。
歯を動かす時には歯槽骨の吸収と添加が起きますが、力のかかり方や程度により歯槽骨の高さが変化すると歯肉の位置も変化します。
また、倒れて斜めになっている歯を起こしたときにも、歯槽骨の位置と歯の位置関係から結果として歯肉退縮となることもあります。
虫歯治療
歯肉のきわにできたう蝕(虫歯)を治療し、被せ物や詰め物をした後に歯肉退縮を起こすこともあります。
一度う蝕になった歯は、上手く治療したとしても歯本来の理想的な状態とは異なってしまいます。う蝕を取りきるために歯肉の下まで削らなくてはならないことも多くあり、そのような歯は歯肉退縮のリスクが高くなってしまいます。
歯肉退縮の治療
これまで歯肉退縮による影響と原因をみてきました。では、歯肉退縮を治療することはできるのでしょうか?
歯周形成手術
歯肉退縮への治療として一般的なものになります。
術式にはさまざまなものがありますが、基本的には、歯肉退縮した部位にどこかから歯肉をもってきて露出した歯根を隠す手術といえます。
どの術式が採用されるかは歯肉退縮の程度や覆う範囲、歯肉の厚さなどにより決まります。
歯周病治療や審美治療の一貫として行われることもある術式で、術者の能力に結果が左右されやすいものでもあります。
クリーピング
歯肉を切らずに、少しずつ増殖させる治療法です。
ブラッシング圧が強すぎた場合などはブラッシングを改善するだけでクリーピングが起こることがあります。
すべての場合に使えるものではなく、治療の結果がでるまでに数年かかることもあります。またこれも、術者の能力に影響されます。
処置のためには被せ物を外して仮歯にする場合があったり、長期にわたって継続的に経過を追う必要があります。
【まとめ】歯茎が下がる歯肉退縮の原因と治療法
歯肉退縮の原因や治療法などを解説しました。
この記事では、下記のようなことが分かったのではないでしょうか。
ここがポイント!
- 歯肉退縮とは、辺縁歯肉の位置が歯根側に移動して歯根が露出した状態をいう
- 歯肉退縮により、知覚過敏や根面う蝕をまねくことがあり、歯肉退縮による清掃性の低下が、根面う蝕の発生や歯周病の進行に影響することもある
- 歯肉退縮で歯根が露出すると、歯が長い印象になったり歯根の色調が目立ったりして、審美面に悪影響をおよぼすことがある
- 歯肉退縮の主な原因は、歯周病や過度のブラッシング圧、歯間清掃器具の不適切な使用などで、歯列矯正や虫歯治療で歯肉退縮が起きることもある
- 歯肉退縮の治療法としては、歯周形成手術やクリーピングなどがある
歯肉退縮の原因にはさまざまなものがあり、対応もそれぞれ異なります。
気になるところがある場合は、歯科医師に相談してみましょう。
参考文献
埴岡隆,田中宗雄,小島美樹,片岡宏介,永田英樹,雫石聰. 「歯肉退縮と歯頸部摩耗についての疫学的研究-年齢, ブラッシング習慣および喫煙習慣との関連について」. 口腔衛生学会雑誌. 1994年, 44巻, 2号, p.202-210. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jdh1952/44/2/44_2_202/_article/-char/ja/, (参照 2020-12-8)