部分矯正とは
部分矯正とは、歯列全体を対象に行う全顎矯正と異なり、1本から数本の歯の歯並びを整える歯列矯正治療です。 小矯正や限局矯正、MTM(Minor Tooth Movement)矯正とも呼ばれます。
軽度の歯間離開(すきっ歯)や歯性上顎前突(出っ歯)、叢生(ガタガタした歯並び)、捻転歯(ねじれ)などを適応に、審美性に関わる前歯部の治療に多く採用されてきました。
部分的な矯正のため、歯列全体に力を付与して歯を移動する全顎矯正と比較して、約3か月~半年と短期間かつ比較的安価に治療を完了できますが、適応を正確に診断することが必要になります。
部分矯正はこんな方におすすめ
- 前歯の部分的な歯並びの乱れが気になる
- 短期間で目立つところだけを治したい
- 矯正歯科治療の治療費を抑えたい
- 過去の矯正治療の後戻りを修正したい
- 小児矯正の経験があり、永久歯列で若干修正したい箇所がある
- 臼歯の咬み合わせに問題がない
部分矯正の特徴
部分矯正は、短期間かつ安価に歯列を局所的に整えることに優れています。また、全顎矯正の後戻りや仕上がりの微修正にも適しています。
治療期間が短い
全顎矯正では、2~3年の治療期間が必要です。対して、部分矯正は3か月〜半年程度で、気になる歯列を部分的に整えることに優れています。そのため、結婚式や面接など大切なライフイベントを控えている方や矯正装置を長期間装着できない方に適した治療方法です。
治療費が比較的安価
全顎矯正では、100〜150万円程度の治療費がかかることが一般的です。
対して部分矯正では、動かす歯も数本と限られていることから、装置も小さく移動にかかる期間も短いため治療費を抑えることができます。前歯部の部分矯正は20~40万円ほどで治療できるケースもあります。
治療中の痛みが少ない
矯正治療では、歯列に持続的に弱い力を付与して歯を移動するため、痛みや違和感を生じることがあります。
対して部分矯正では、力を付与する対象が限られるため、痛みは全顎矯正と比較して少ないことが期待できます。
治療期間中の審美性への干渉が少ない
矯正治療を始めるか迷っておられる方は、治療期間中の装置が目立つことを負担に感じる方もいらっしゃいます。
部分矯正では、治したい歯の周囲のみに装置を装着しますので、全顎矯正と比較して装置による審美性の低下は少なくなります。
適応が限られる
単に出っ歯といっても、歯の大きさや傾き、顎の位置関係など様々な要因があり、それぞれの要因にあった治療を行わないと理想的な歯並びにはなれません。
ご自身では1本の歯だけを治したい場合でも、部分矯正では適応にならず、全顎矯正をお勧めする場合があります。
歯を切削することがある
部分矯正では、歯列に対して歯の幅径が大きい場合、ディスキングといってエナメル質を0.25~0.5㎜ほど切削することがあります。
歯を切削しない場合と比較して、ディスキングの影響により知覚過敏の症状が出る可能性があります。
咬み合わせの治療には適さない
部分矯正は一部分を矯正する治療のため、不正咬合(正常に咬み合わない状態)がある場合は適応外です。
不正咬合が原因の場合には、全顎矯正をお勧めすることがあります。部分矯正のみの場合でも、より機能的な咬合となるような歯並びへと導く処置を行います。
部分矯正のメリット
部分矯正は、前歯など目立つ1本~数本の歯並びの乱れを限局的に整えることに優れた治療方法です。
気になる部分のみを治療対象とできる
部分矯正では、咬合に問題がなければ、捻転や歯間離開、叢生など気になる部分のみを対象に歯列矯正を行うことに適しています。
例えば、審美性にかかわる前歯の軽度の捻転などに実績があります。
装置の装着範囲が小さい
部分矯正では治療対象とする歯が限られるため、装置も対象とする歯やその隣り合う歯など数本に限られます。
装置が小さいことから、審美性の低下も避けられ、ブラッシングが難しくなり口腔衛生が低下するリスクも少ないことが期待できます。
治療期間が短い
歯列矯正では理想的な歯並びへと導くため、歯列に物理的に力を付与して歯の移動を起こします。部分矯正は移動する歯が限られるため、歯の移動も小さく短期間で治療を終えることができます。
費用が比較的安価
部分矯正は、装置も部分的であり、治療期間も短いため相対的に全顎矯正と比較して安価に治療を完了することができます。
臼歯の咬み合わせを動かさない
部分矯正の適応となる症例は、不正咬合がないことが条件です。安定した臼歯の咬み合わせのもとで、部分的に歯並びを修正することができます。
部分矯正のデメリット
短期間かつ安価、審美性も損なわずに治療できる部分矯正にもいくつかのデメリットがあります。
適応症が限られる
部分矯正で治療できる範囲は限られています。理想的な歯並びになるためには、全顎矯正が適している場合に、無理に部分矯正を選択すると、満足度の低い治療や咬み合わせがずれるリスクがあります。
知覚過敏
歯の幅径を小さくするために、エナメル質の範囲内で歯を切削することをディスキングといいますが、ディスキングの影響により知覚過敏症状が起こることがあります。
咬み合わせは治せない
歯列矯正治療では、審美性を高めることだけでなく、歯列を整えることで咬み合わせがより理想的に機能する必要があります。切端咬合や反対咬合など、咬み合わせに不正がある場合は、部分矯正ではなく全顎矯正をお勧めすることがあります。
部分矯正と全顎矯正の違い
部分矯正
治療対象
- 1、2本の限局的な歯列不正
- 軽度の歯の捻れ
- 軽度の叢生
- 3㎜以下の歯間離開など
適応外の症例
- 不正咬合がある症例
- 上顎前突(出っ歯)、下顎前突(うけ口)、犬歯の唇側転移(八重歯)など、歯列に対して対象歯をひっこめる必要がある症例
- 歯冠幅径が大きくディスキングだけではスペースが不足する症例
- 抜歯が必要な症例
費用
20~40万円程度
治療期間
3か月~6か月程度
仕上がりの完成度
対象とする歯列の修正のみ
メリット
- 治療期間が短い
- 費用が比較的安価
- ワイヤー矯正の場合も装置が小さい
デメリット
- 適応症例が限られる
- ディスキングによる知覚過敏のリスク
- 仕上がりが全顎矯正と比べて劣る
全顎矯正
治療対象
すべての歯列不正
適応外の症例
なし
費用
100〜150万円程度
治療期間
2年~3年程度
仕上がりの完成度
歯列のみだけでなく、顔貌のバランスにも考慮した美しい仕上がり
メリット
- あらゆる症例に対応できる
- 歯列と顔貌のバランスの取れた仕上がりにできる
デメリット
- 治療期間が長い
- 費用は部分矯正よりも高額
- ディスキングによる知覚過敏のリスク
- ワイヤー矯正では装置が目立つ
成人の歯科矯正の適応
叢生(八重歯 ・乱杭歯) |
上顎前突 (出っ歯・ 口ゴボ) |
反対咬合 / 下顎前突 (受け口) |
上下顎前突 | 開咬(オープン バイト) |
交叉咬合 | 過蓋咬合(深い 噛み合わせ) |
切端咬合 | 空隙歯列・ 正中離開 (すきっ歯) |
正中の不一致 | 顎偏位 | 過剰歯 | 萌出遅延 ・埋伏 |
捻転歯 | 転位歯 | 歯の着色・変色 | 歯の欠け | 歯の欠損 / 先天性欠如 |
歯茎の黒ずみ (メタル タトゥー) |
ガミースマイル | |
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歯列不正 イメージ |
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セラミック 矯正 |
〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 ※骨格性で ないものに 限る |
〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
マウスピース 矯正 |
〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 ※骨格性で ないものに 限る |
〇 | 〇 | 〇 | 〇 | – | – | 〇 | – | 〇 |
ワイヤー矯正 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 ※骨格性で ないものに 限る |
〇 | 〇 | 〇 | 〇 | – | – | 〇 | – | 〇 |
部分矯正 | 〇 | 〇 ※軽症 |
〇 ※軽症 |
〇 ※軽症 |
〇 ※軽症 |
〇 ※軽症 |
〇 ※軽症 |
〇 ※軽症 |
〇 | 〇 ※軽症 |
〇 ※軽症 |
– | – | 〇 | 〇 | – | – | – | – | – |
部分矯正と全顎矯正のどちらになるかの判断基準
気になる歯並びが限局的であっても、部分矯正ではなく全顎矯正が必要となる場合があります。部分矯正と全顎矯正のいずれが適しているかの基準として、以下の点が挙げられます。
不正咬合の有無
不正咬合とは、歯の大きさや位置、顎のバランスなどの要因から機能的に正常に咬めていない状態です。
部分矯正では、臼歯の咬み合わせの修正を必要とする不正咬合の治療には適していません。
仕上がりの完成度
部分矯正では、歯列だけでなく顔貌を考慮して行われる全顎矯正と比べて、仕上がりには限界があることは否めません。患者様が部分的な歯列不正の解消だけでなく、美しい口元など、満足度の高い仕上がりを希望する場合には全顎矯正がお勧めです。
前歯の部分矯正の種類
気になる前歯のみを治療したい場合には、従来のワイヤー矯正のほか、マウスピース矯正、セラミックによる治療などが選択肢としてあります。
ワイヤー矯正
ワイヤー矯正は、歯にブラケットと呼ばれる装置を接着してワイヤーで結束することで、歯の移動を促す治療方法です。咬み合わせを含めた歯並びの修正に対応できるため、ほとんどすべての症例に適応します。
インビザライン・エクスプレス
マウスピース矯正の主流ともいえるインビザラインの中で、インビザライン・エクスプレスは最も軽度な症例を対象としたパッケージです。治療期間も3~6か月程度で終了する軽度な前歯の治療に適しています。
インビザラインGo(ゴー)
インビザラインGo(ゴー)の治療対象は、前歯から第二小臼歯までを対象としています。大臼歯の位置や咬み合わせは動かさずに治療を完了します。そのため、歯の移動量が限られていますが、軽度の歯間離開や捻転歯の治療に適しています。
MTM矯正
Minor Tooth Movementの頭文字からなる MTM矯正は、1~2本程度の歯を対象とした軽度の歯列不正を対象とした治療方法です。歯の移動量が少ない治療を対象とするため、短期間で治療が完了しますが適応症例は限られています。
セラミック矯正
セラミック矯正は、歯の移動を伴わない治療方法です。歯冠を切削し、セラミックによる被せ物をセットすることで、歯並びの凹凸を修正します。通院回数も3、4回と少なく、治療期間が短いことも特徴です。
ラミネートベニア
ラミネートベニアは、主に前歯の症例に用いられることが多い治療方法です。歯の表面をエナメル質の範囲で薄く切削し、ネイルチップ様のセラミックを合着します。歯並びのほか、歯の変色にも有効な治療方法です。
当院では、歯を切削しない「削らないラミネートベニア」の治療にも対応しております。
ダイレクトボンディング
ダイレクトボンディングは、様々な色調の歯科用レジンを積層し、天然歯と類似した色調や形態を再現する治療方法です。部分矯正の1つとして、軽度の歯間離開を修正することに適しています。
部分矯正の治療例
セラミック矯正による前歯の部分矯正の症例
部分矯正の適応
叢生(八重歯・乱杭歯)
上顎前突(出っ歯・口ゴボ) ※軽症
反対咬合 / 下顎前突(受け口) ※軽症
上下顎前突 ※軽症
開咬(オープンバイト) ※軽症
交叉咬合 ※軽症
過蓋咬合(深い噛み合わせ) ※軽症
切端咬合 ※軽症
空隙歯列・正中離開(すきっ歯)
正中の不一致 ※軽症
顎偏位 ※軽症
捻転歯
転位歯
部分矯正の流れ
部分矯正は症例によって適した治療方法があり、いくつかの選択肢があります。
以下は、ワイヤー矯正による部分矯正の流れです。
当院の診察・相談は60分程度の時間をかけて、患者様の現在の歯並びのお悩みや治療に際してのご都合などをお伺いします。診察・相談は、部分矯正に実績のある女性歯科医師が担当いたします。
現在の歯並びの状態を分析するために資料採集を行います。
口腔内写真や顔貌写真、レントゲン検査、う蝕や歯周病の状態を確認するための口腔内診査を行います。歯型採取、咬み合わせの記録を含めて1時間程度の所要時間です。
検査結果をもとに、歯並びの不正となる原因を分析し診断します。理想的な歯並びに導くために必要な治療計画を担当医が立案いたします。
部分矯正を行うために必要な処置や装置、治療期間や費用についてご説明いたします。
治療を始めるにあたり心配事やご不安な点などがありましたら、遠慮なくお伝えください。治療内容にご同意いただければ、次回より治療を開始いたします。
治療計画に沿って、治療を開始していきます。まずは、部分矯正を行うための必要な装置を装着するために、口腔内のクリーニングを実施します。
装置によっては、口腔衛生の維持が困難となる場合があるため、ブラッシング指導を行います。
ワイヤーによる部分矯正では、移動する歯にブラケットを装着し、ワイヤーで結紮します。
ブラケットの厚みや物理的に力を付与したことで違和感を生じますが、徐々に、軽快するのでご安心ください。
月に1~2回の通院により、治療効果を確認し適した調整を行います。ご来院時には、装置を取り外し隅々までクリーニングを行います。
ワイヤーによる部分矯正治療が完了し、治療計画における最終的な歯並びになったら、装置を取り外します。部分矯正であっても、後戻りのリスクがあるため、続けて保定を行います。
一定期間、取り外し式のリテーナーを装着したり、歯の裏側に固定式の目立たないワイヤーを装着することで、後戻りを防止します。また、治療終了後もメインテナンスとクリーニングを継続し、美しい歯並びの維持に努めましょう。
部分矯正の料金・費用
メニュー名 | 本数・回数 | 価格 |
---|---|---|
表側部分矯正 | 上下顎 前歯6本 メタルブラケット | 660,000円 |
リンガル(裏側)部分矯正 | 片顎 前歯6本 | 660,000円 |
ハーフリンガル(上顎:舌側、下顎:表側) | 1,100,000円 | |
MTM矯正 | 隙間1か所のみ | 165,000円 |
部分矯正のよくある質問
歯並びを最も短期間に治療できる方法は、セラミック矯正です。
この方法では、歯の移動を伴わず、歯冠を切削し被せ物により歯並びを整えます。短期間かつ通院回数も少ないですが、歯を切削する必要があることや、食いしばりなどが強い場合には適応外となることなど、十分に理解し選択することが必要です。
セラミックの補綴物が完成するまで、仮歯でお過ごしいただく期間が必要ですが、当院では患者様それぞれに合わせた、審美性に優れた仮歯を作製しておりますのでご安心ください。
部分矯正は、歯列を整えることに優れていますが、咬み合わせの治療には適していません。そのため、部分矯正よりも全顎矯正の方が、咬み合わせを含めた上下の歯の位置関係や顔貌を考慮した仕上がりには優れているといえます。
無理に部分矯正のみで治療を進めてしまうと、満足度の低い治療となってしまうので、部分矯正の実績のある歯科医師と十分に相談し治療を選択しましょう。
部分矯正では、ワイヤー矯正やマウスピース矯正を選択される患者様が多くいらっしゃいます。特にワイヤーによる部分矯正では、装置を歯の裏側に装着する裏側矯正(舌側矯正)の他、ワイヤーやブラケットといった装置の材質を目立たないものに変更することも可能です。
また、マウスピース矯正による部分矯正もすでに多くの症例で実績を重ねており、透明なマウスピースによる部分矯正は、目立たずに治療を行うことができる方法の1つとなっています。
部分矯正は、治療期間も短く費用も抑えられるため、患者様にとっては魅力の多い矯正歯科治療の方法です。患者様の歯並びが部分矯正で治療できるか、全顎矯正が適しているかを判断するには、診察・相談による現在の患者様のお悩みや検査による歯並びの状態を正確に診断し、総合的に判断することが必要です。
部分矯正から全顎矯正まで、あらゆる歯並びの矯正歯科治療の実績豊富な当院の歯科医師まで、まずはお気軽にご相談ください。
部分矯正では歯の大幅な移動を伴わないため、抜歯ではなく、症例によって歯の幅径をエナメル質の範囲内で薄く切削することがあります。ディスキングといって歯の表面を1㎜以下の厚みで切削しますので、処置中も麻酔は必要ありません。
確かに最後方臼歯である親知らずが未萌出であることは、将来的に親知らずが生える動きにより、歯列が前方に押される力が発生し歯並びに影響を及ぼす可能性が考えられます。
当院では、歯の効率的な移動や後戻りのリスクを判断するために、治療前の検査では画像診断を行い、患者様それぞれのお口の状態にあった治療方法をご提案いたしております。
部分矯正のページをご覧の皆様へ
このページでは前歯から奥歯まですべてを矯正する全顎矯正に対し、奥歯の咬み合わせをさわらずに、気になる部分だけを矯正する部分矯正についてご確認いただけます。
当院では、ワイヤー矯正、マウスピース矯正、セラミック矯正のそれぞれを専門とする女性歯科医師が所属しております。そのため、審査診断の結果と患者様のご要望両方を加味し、必ずしも全顎矯正だけではなく、気になる部分だけを改善することで、治療費、治療期間を減らす方法のご案内が可能です。
全顎矯正の敷居が高く諦めていた方も、医療として問題ない範囲で部分矯正がご案内できることもございます。これは、すべての専門分野の歯科医師が揃っている当院の特徴でもあります。