差し歯のブラックマージンが起きる原因と治療
歯肉の変色は機能的に異常がない場合でも、審美的な点から問題とされます。
歯肉の変色のひとつに、金属材料を使った補綴治療を受けた歯の周囲歯肉に生じる黒い線状の色調変化があり、その所見からブラックマージンとよばれているものがあります。
この記事では、補綴治療後にブラックマージンが生じる原因とその治療法などについて解説します。
この記事を読むことで、ブラックマージンの原因や治療法、治療費などの理解が深まり、下記のような疑問や悩みが解決します。
こんな疑問を解消!
- ブラックマージンとは何か?
- ブラックマージンとメタルタトゥーの違い
- ブラックマージンの原因
- ブラックマージンの治療法
- ブラックマージンの治療費
目次
ブラックマージンとは
ブラックマージンとは、金属製修復物・補綴物による修復治療・補綴治療を受けたのち、歯肉縁に補綴物のマージンが露出することで生じる黒色ラインです。
自覚症状や機能障害はない
自発痛や歯肉出血、歯肉腫脹などの自覚症状は認められません。
ブラックマージンが出現する時期
ブラックマージンが出現するのは、金属補綴物の装着から数年後が大半です。
ところが、金属補綴物のマージンの設定位置が不適切であった場合では、補綴治療直後にブラックマージンが生じることもあります。
メタルタトゥーとの違い
ブラックマージンと似た症状にメタルタトゥーがあります。
メタルタトゥーは、卑金属材料で製作された金属補綴物から金属イオンが溶出し、歯肉に金属イオンが沈着して起こる歯肉変色を指します。
このように、ブラックマージンとメタルタトゥーは全く異なる症状です。
ブラックマージンの原因
ブラックマージンが生じる原因には、以下のようなものが挙げられます。
金属製被覆冠
保険診療の適応を受けているレジン前装鋳造冠や自費診療の陶材焼付鋳造冠は、内面フレームに金属を用いています。
歯肉退縮にともない、内面フレームの縁が露出すると影となる金属部分が黒く見えることがあります。
このようにして、金属製の被覆冠を装着している方にブラックマージンが生じます。
メタルコア
歯冠が崩壊した症例では、支台歯に支台築造(コア築造)を行った後に、全部被覆冠などの補綴物を装着します。これが歯冠継続歯、いわゆる差し歯です。
支台築造の材料はさまざまですが、そのひとつが金属材料で製作されたメタルコアです。
このメタルコアから時間の経過とともに金属イオンが溶出すると、メタルコア周囲の歯根に金属イオンが沈着します。歯質が薄い歯根では、歯根の表面にまで金属イオンの沈着が現れるために歯根が変色します。
このような症例では、歯肉退縮が生じるとメタルコアにより変色した歯根が露出し、ブラックマージンを生じることになります。
合着セメント層の変色
補綴物を支台歯に合着する際、接着性レジンセメントやグラスアイオノマー系レジンセメントなどが利用されています。
これらのセメントは、経年劣化に変色を生じることがありますが、基本的には補綴物の内部にあるためセメントが変色しても問題とされません。ところが、唇側歯質が菲薄化した支台歯の支台築造物の合着に用いたセメントが変色すると、歯肉退縮に伴いセメントの色調変化が表面に現れることがあります。
このようにして補綴治療で避けられない合着セメント層の変色も、ブラックマージンを生じる原因のひとつと考えられています。
歯根の着色
歯が失活すると、歯の色調は全体的に暗くなります。
暗い色調になった失活歯の歯根が歯肉退縮により露出すると、ブラックマージンを引き起こします。
ブラックマージンを起こしにくい補綴治療
ブラックマージンを起こさない補綴治療法は、金属材料を使わないメタルフリー治療が第一選択になります。
ジルコニア・オールセラミッククラウン
ジルコニア・オールセラミッククラウンは、内面フレームにジルコニアというセラミック材料、外層にポーセレンを使ったセラミッククラウンです。金属材料を一切使わないので、オールセラミッククラウンとよばれています。
ジルコニア・オールセラミッククラウンであれば、歯肉退縮してクラウンのマージン部分が露出したとしても金属色が出ることがないため、ブラックマージンを起こすことがありません。
e-max
e-maxは、二ケイ酸リチウムガラスセラミックというガラス系のセラミック材料で作られたセラミッククラウンです。
ジルコニア・オールセラミッククラウンと同様に、金属材料を一切使っていません。
e-maxは、内面フレームと外層という二重構造ではなく、すべて単一のセラミック材料で作られているのが特徴で、ガラス系素材の透明感の高さで知られています。
金属材料を使用していないため、歯肉退縮をきたしてもブラックマージンの原因にはなりません。
その一方で、ジルコニア・オールセラミッククラウンほどの硬さはなく、ブリッジに使えないという難点もあります。
ファイバーコア
ファイバーコアは、支台築造用コンポジットレジンとグラスファイバー製の支台築造用ファイバーポストで作られた支台築造物です。
天然歯と同程度の硬度なので歯根破折を起こしにくいうえ、天然歯に近似した色調なので審美性も優れています。
ファイバーコアで支台築造を行うと、歯肉退縮によってファイバーコアが露出しても天然歯の色調に近似したファイバーコアしか見えないため、ブラックマージンは生じません。
ブラックマージンを起こさない支台歯形成のポイント
ブラックマージンを起こさないためには、支台歯形成にも注意が必要です。
唇側面のフィニッシュラインの設定位置
支台歯形成時に、唇側面のフィニッシュラインを歯肉縁下 0.5〜0.8㎜で歯肉溝内に設定します。
歯肉縁下マージンは、審美性の高さに加え、プラークが停滞しやすい先天的不潔域を覆うことによる二次カリエス(二次虫歯)の発症予防効果も期待できます。
隣接面のフィニッシュラインの設定位置
隣接面のフィニッシュラインの位置も、唇側面と同じく歯肉縁下に設定します。
隣接面のフィニッシュラインが不適切であると、歯肉炎をきたし、唇側面に及ぶ歯肉退縮の原因となります。
直接的にブラックマージンの原因となる唇側面と同様に、隣接面のフィニッシュラインもブラックマージンに関係しています。
ブラックマージンを起こしにくい補綴物の治療費
ブラックマージンを起こしにくい補綴物の治療費は、次の相場感となっています。
ジルコニア・オールセラミッククラウン
ジルコニア・オールセラミッククラウンの治療費の相場は、1歯あたり10万円〜15万円ほどです。
ジルコニアは非常に硬度が高く加工が困難なため、このような治療費になっています。
e-max
e-maxは、1歯あたり5〜10万円程度が相場です。
ファイバーコア
ファイバーコアは、1歯あたり1〜2万円ほどに治療費が設定されていることが多いです。
この治療費が、前述したジルコニア・オールセラミッククラウンやe-maxの治療費に追加されることになります。
【まとめ】差し歯のブラックマージンが起きる原因と治療
歯肉の変色は審美的に問題とされ、さまざまな症状が報告されています。
補綴治療を受けた後に歯の周囲歯肉に生じる歯肉変色のひとつが、ブラックマージンです。
この記事では、下記のようなことがご理解いただけたのではないでしょうか。
ここがポイント!
- ブラックマージンは、歯肉退縮により露出した金属製補綴物のマージン部分を中心とした変色
- ブラックマージンはメタルタトゥーとは異なる
- ブラックマージンの多くは金属補綴物装着数年後に発症するが、マージンの設定が不適切な場合は、装着後すぐに発症することもある
- ブラックマージンが生じる原因は、金属補綴物のマージン、歯根の着色、合着セメントの変色など
- ブラックマージンを起こしにく補綴治療法は、ジルコニア・オールセラミッククラウンやe-max、ファイバーコアなどのメタルフリー治療
- ブラックマージンを防ぐには、支台歯形成時のフィニッシュラインの位置を歯肉縁下に設定する
- ブラックマージンの治療費は、ジルコニア・オールセラミッククラウンで10〜15万円、e-maxで5〜10万円、ファイバーコアで1〜2万円が相場
ブラックマージンは、疼痛や腫脹などの炎症症状や機能障害は認められませんが、審美的に問題とされています。
ブラックマージンを防ぐためには、専門的知識だけでなく、補綴治療の治療経験や専門的技術が欠かせません。
当院では、主にブラックマージンのリスクのない、e-max、ジルコニア、ファイバーポストを使った差し歯やセラミック歯の治療を行なっております。また、他院で治療した金属の差し歯やコアによるブラックマージンの修復治療も対応しております。
ブラックマージンの起きない補綴治療、ブラックマージンの解消をご希望の方は、ぜひ当院にご相談ください。