オールセラミックは奥歯の詰め物や被せ物に適応?

昭和の時代の時代劇などでは、俳優さんの奥歯に銀歯がのぞくことがありました。「江戸時代なのに銀歯!?」と、意外と奥歯の詰め物や被せ物は目立つのです。
会話中や、思いっきり笑った際に銀歯がキラッとのぞくことは、避けたいものです。
その場合に適しているのが、白い素材を使用した詰め物や被せ物です。特に、色彩や透明度に優れたオールセラミックによる治療方法は、ご存知の方もいらっしゃるのではないでしょうか?
色彩や透明度に優れたオールセラミックには、セラミック特有の衝撃に弱いという欠点があります。
今回は、“オールセラミックは奥歯の治療に適しているか?”ということについて、わかりやすく解説していきます。
目次
奥歯の範囲と機能
一般的に、成人のお口の中には、上下左右に、前歯、側切歯、犬歯、第一小臼歯、第二小臼歯、第一大臼歯、第二大臼歯の計7本を1ブロックずつとして、計28本の歯があります。そのほかに、親知らずとよばれる第三大臼歯が萌出している場合もあります。
それぞれの歯には、咬み切る、すりつぶすといった役割があり、特に、奥歯と呼ばれる大臼歯はすりつぶす他に、咬みしめるという機能があります。
咬みしめる力
咬み合わせるときに、歯にかかる力を咬合力と呼びます。
毎日の生活の中では、食事や会話の他に、食いしばる時など、奥歯に力をいれるタイミングが多々あります。
では、咬合力として、歯にはどれくらいの負荷がかかっているのでしょうか?
健康な成人男性(20〜30歳) 42 名を対象にした実験で、かみしめ時に奥歯にかかる咬合力を測定した研究によると、最小では 27.5kg 、最大では 100kg もの値を記録し、その平均は 59kgであったという報告があります。かみしめる際には、自分の体重以上の力が奥歯にかかっているということがわかっています。
力のかかる奥歯に適した治療方法とは
咬合力の負荷が大きい奥歯に適した治療方法とはどのようなものがあるでしょうか?
保険診療の場合、基本的には、見えない部分であるということから、審美的な要素は考慮されずに、強度に優れた金属クラウン(かぶせもの)や、金属インレー(つめもの)が選択されます。この場合に使用される素材は、金銀パラジウム合金と呼ばれるものです。強度に優れていますが、唾液にさらされることで、経年的に劣化し、金属イオンが流出します。
自由診療と呼ばれる保険診療以外の治療方法では、色彩や透明度を考慮した素材を選択することができます。自由診療で選択される白い素材としては、オールセラミックがありますが、色彩や透明度という審美要素の他に、硬く傷がつきにくい、金属イオンが流出しない、安定した素材であるといったメリットが多い素材です。
結果として、表面にプラークが蓄積しにくく、歯周病やう蝕リスクに優れているという、衛生的な素材であることもメリットのひとつです。
臼歯にオールセラミックを選択する際に気をつけたいこと
では、オールセラミックは、臼歯部のインレーやクラウンには適しているのでしょうか? オールセラミックを臼歯に使用した場合、注意したいことは、衝撃に弱く欠けるリスクがあるということです。そのため、趣味のスポーツや、お仕事の関係で力を咬みしめることが多い方や、夜間の歯ぎしりの可能性がある場合にはお勧めできません。
強さのあるジルコニアセラミック
オールセラミックの弱点については、先にお伝えしましたが、では、臼歯部を白く治療することは、あきらめなくてはならないのでしょうか。
臼歯部を白くしたいという場合に、お勧めしたいのがジルコニアセラミックです。
ジルコニアは、ZrO2の化学式であらわされる強度と靭性に優れたセラミックの1種です。人工ダイヤとも呼ばれることから、強度に優れていることは想像しやすいかと思います。
臼歯部の治療を行う際、例えばジルコニアセラミックをフレームに使用したジルコニアセラミッククラウンは、強度に優れるため、臼歯部にも適しているといえます。
ジルコニアセラミックは、色調や透明度という点で、オールセラミックに類似していることから、審美的にも優れています。
ジルコニアセラミックについて注意が必要なことは、硬度が高いことから、咬みあう歯(対合歯)を摩耗させる可能性があるため、咬合の調整に注意が必要であることです。
そのため、多くのジルコニアセラミック症例を経験した歯科医師のもとで施術を受けることが大切です。
そのほかの白い奥歯の補綴治療
臼歯部の治療に関して、保険適用の銀歯や、自由診療のオールセラミックやジルコニアセラミックの治療方法については、すでにご説明しました。
この他にも、歯科用レジンを使用した治療方法があります。レジンとセラミックを混合したハイブリットレジンインレーや、ハイブリットレジンジャケット冠です。この方法は、白い素材でありながらも、オールセラミックやジルコニアセラミックを使用した場合よりも比較的安価に治療費を抑えることができます。
しかし、ハイブリットレジンは、色調の再現性には優れていますが、透明度に劣ること、経年変化により変色するというデメリットがあります。
【まとめ】オールセラミックは奥歯の詰め物や被せ物に適応?
日々の生活の中で、奥歯には、自分の体重とほぼ同じ荷重がかかっています。そのため、奥歯の治療には、素材の強度が重要です。
色彩や透明度に優れたオールセラミックは、衝撃に弱く、時に割れたり、欠けるリスクがあるため、残念ながら荷重のかかる奥歯には不向きといえます。
奥歯の治療を行う場合には、オールセラミックの審美性とともに、強度を兼ね備えた素材であるジルコニアセラミックが適しています。ジルコニアセラミックの治療には、熟練した技術力が必要であることから、多くの症例を経験した歯科医師のもとで施術をうけることが大切です。