歯茎の変色について
歯茎は歯周組織という、歯を支える重要な組織のひとつです。
健康な状態にある歯茎は、潤い感のあるピンク色をしています。ところが、歯茎は常にピンク色をしているというわけではなく、黒ずんだり、赤みが差したりと変色をきたすことも多いです。
歯茎が変色しても、疼痛や腫脹などの炎症所見を伴うとは限らず、他者から指摘されるまで気が付かないことも珍しくありません。炎症所見を伴わなくとも、歯茎の変色は特に前歯部に生じると、口元の審美性に大きく影響します。このため歯茎の変色を改善する、様々な治療法が開発されています。
歯茎の変色の原因と症状(リスク)
本来ピンク色で引き締まってみずみずしいはずの歯茎が、赤らんで腫れぼったくなった場合は、虫歯や歯肉炎、歯周病の可能性があります。放置すると慢性的に歯茎が赤らみ、出血が起こることもあります。歯茎の黒ずみは、他人に不衛生な印象を与え、老けてみえることもあります。
外来性色素沈着
外来性色素沈着は、金属系の歯科材料が金属修復物、金属補綴物から溶出し、歯茎に沈着することで生じる歯茎の変色です。金属成分が原因ということで、メタルタトゥーとも呼ばれます。
多くの場合に金属補綴物近くの歯茎に、褐色や灰紫色などの変色を認めます。
歯周病
歯周病は、歯茎にのみ炎症が生じる歯肉炎と、歯の周りの骨である歯槽骨などにも炎症が広がった歯周炎の総称です。
歯周炎を生じると、歯茎の発赤、腫脹、出血などを生じます。このため、歯茎の色調が赤く変色します。
歯肉縁下歯石
歯石は、歯の表面についているプラークが古くなって石灰化したものです。
歯肉より歯冠側についた歯石は黄白色ですが、歯肉の縁より歯根側に付着した歯石は黒色を呈します。歯茎自体が変色したわけではありませんが、黒い歯石が歯肉を通して見えると、歯茎が黒く変色したように見えます。
歯肉白板症
歯肉白板症は、歯茎に拭っても取れない白斑のうち、その他の病気に分類できない病気です。40代以上の男性に多く、5〜10%ほどが悪性化すると言われています。
症状は歯茎に生じた白斑で、疼痛や腫脹を認めることはほとんどありません。
口腔扁平苔癬
口腔扁平苔癬は、角化亢進を伴う炎症病変です。
原因は解明されておらず、粘膜によく発生しますが、歯茎にも生じます。口腔扁平苔癬を生じた歯茎は、白いレース状の模様が生じ、その周囲に発赤を認めます。
口腔粘膜炎
口腔粘膜炎は、抗がん剤治療や放射線治療中に生じる粘膜の炎症です。
歯茎に生じると、軽症では紅斑という赤い斑点、重症化すると、潰瘍を形成します。出血や疼痛が強ければ、食事にも影響が生じます。
色素性母斑
色素性母斑は、メラニン産生能力を有する母斑細胞の増殖が原因です。皮膚に多く生じ、口腔内に生じることは稀ですが、起こらないわけではありません。
歯茎に生じた色素性母斑は黒褐色を呈し、境界明瞭で扁平に隆起しています。
メラニン色素沈着
メラニン色素沈着は、メラニン形成細胞内で産生されたメラニンが、歯茎の細胞質に沈着することで生じる歯茎の変色です。日本人の5%ほどに認められます。
前歯部の歯茎に生じやすい傾向があり、淡褐色から黒褐色の色素沈着による変色を認めます。
喫煙
喫煙するとメラニン形成細胞が刺激され、歯茎内でのメラニンの形成が促進されます。その結果、メラニン色素沈着を生じ、歯茎に黒褐色の変色を生じます。
喫煙の影響は、喫煙者本人だけに留まりません。副流煙により、周囲の人たちにもメラニン色素沈着を生じます。
口呼吸
鼻呼吸という正常な呼吸ではなく、口で呼吸する口呼吸を続けていると、紫外線が歯茎に当たるようになるので、歯茎の変色の原因となります。
口腔カンジダ症
口腔カンジダ症は、カンジダ・アルビカンスなどの真菌、すなわちカビの感染症です。真菌は口腔内の常在菌で、免疫力が低下した場合に発症します。
口腔カンジダ症が発症すると、歯茎など口腔内に白い苔のような付着物を認めます。この付着物は、拭うと簡単に取り除けるのが特徴です。
再発性アフタ
再発性アフタは、いわゆる口内炎です。
歯茎に直径数㎜程度の円形の浅い潰瘍を形成します。表面は黄白色〜灰白色の膜で覆われていますので、再発性アフタが歯茎に生じると歯茎が白色に変色します。
疣贅型黄色腫
疣贅とは、イボのことです。疣贅型黄色腫は、口腔内に黄白色のイボ状の病変を形成します。
口腔内では比較的稀な病気で、歯茎に最も生じ、次いで、口蓋、舌、頬粘膜と続きます。歯茎に生じた疣贅型黄色腫は、歯茎に隆起した黄白色の変色を認めます。
悪性黒色腫
悪性黒色腫は、メラニン産生細胞が悪性転化したことで生じる悪性腫瘍で、皮膚ガンとして知られています。日本人などの有色人種での発生頻度は、あまり高くありません。
歯肉に生じた悪性黒色腫は、歯肉に隆起性を伴う黒色の変色を認めます。
線維肉腫
肉腫とは、悪性腫瘍の一種です。
コラーゲンを産生する線維芽細胞が悪性化したものが線維肉腫です。30代に多く、肉腫の数%を占めます。
大腿骨などによく生じますが、口蓋など口腔内に生じることもあります。線維肉腫が口腔内に発症すると、骨の膨隆を伴う歯肉の発赤を認めます。
歯肉癌
歯肉癌は、歯肉を原発巣とする悪性腫瘍で、上顎、下顎どちらにも発症します。口腔癌全体で見ると10%ほどの発症頻度で、舌癌に次いで高い頻度を示します。
歯肉癌は初期症状が歯周病と似ていて、初めは歯茎に発赤を伴う腫脹や疼痛が生じます。進行するにつれて、周囲を硬結という硬い腫れで覆われた潰瘍が生じます。
変色した歯茎の治療
変色した歯茎の治療は、症状に応じてさまざまな治療法が開発されています。
ケミカルガムピーリング
ケミカルガムピーリングは、フェノールという薬剤を使って歯茎の変色の改善を図る治療法です。フェノールが作用した歯茎がターンオーバーにより、新しい上皮に置換することを利用して歯茎の変色を解消します。
疼痛はほぼなく、表面麻酔だけで治療を行います。術後、1週間程度で歯茎の状態が改善できます。
レーザーガムピーリング
レーザーガムピーリングは、歯科用レーザーを照射して歯茎の変色の改善を図る治療法です。CO2レーザーやEr:YAGレーザーによる蒸散作用で、歯茎の変色を解消します。
疼痛は、ほとんどありません。ケミカルガムピーリングと同じく、1週間程度で歯茎の状態が改善されます。
機械的除去
機械的除去とは、カーボランダムポイントなど、歯科治療で用いられる回転式の切削器具を使って、色素沈着を物理的に除去する治療法です。
金属材料からの金属の溶出による、外来性の歯茎の変色も効果的に改善できます。
歯周病治療
歯周病による歯茎の変色に対しては、歯周病治療が第一選択です。
プラークコントロール、スケーリングという歯石除去、PMTCという歯の表面の機械的研磨を基本とした治療を行います。
歯肉縁下歯石の除去も、歯周病治療のひとつです。
薬物治療
口腔カンジダ症や再発性のアフタによる歯茎の変色に対しては、薬物治療が行われます。
口腔カンジダ症は抗真菌剤の軟膏やうがい薬、再発性アフタには副腎皮質ステロイド軟膏やうがい薬などが効果的です。
禁煙
喫煙の刺激は、メラニン形成細胞を刺激し、歯茎の変色の原因になるため、喫煙習慣をやめることも歯茎の変色治療では欠かせません。
禁煙グッズを使ってご自身で禁煙に取り組むこともできますし、ご自身での禁煙が困難な場合は、医療機関の禁煙外来を利用するという方法もあります。
金属修復物・補綴物の除去
金属材料に原因のある外来性の色素沈着症では、原因となる金属修復物や補綴物の除去が必要です。金属製の修復物や補綴物を除去しても、歯茎の変色が改善するわけではありませんが、そのままでは変色が再発するため必要な処置となります。
金属修復物や補綴物は、セラミック系の歯科材料を使った修復物や補綴物に置き換えます。
腫瘍摘出術
腫瘍摘出術は、良性腫瘍の治療法です。
後述する切除術では、腫瘍の周囲に安全域を設け、広く切除しますが、腫瘍摘出術では原則的に腫瘍のみ摘出します。
良性腫瘍が原因で歯茎の変色を生じたケースでは、後述する切除術では、腫瘍の周囲に安全域を設け、広く切除しますが、腫瘍摘出術では原則的に腫瘍のみ摘出します。
良性腫瘍が原因で歯茎の変色を生じたケースでは、腫瘍を摘出することが治療の第一選択になります。
外科的切除術
歯肉癌や悪性黒色腫では、外科的切除が第一選択になります。
腫瘍の進展範囲に応じ、安全域を設け、必要に応じて下顎辺縁切除術、下顎区域切除術、上顎部分切除術などを行います。
手術後は再発や転移のリスクがあるため、5年間は慎重に経過観察します。
変色した歯茎の治療方法のよくある質問
美容目的での歯茎の変色の治療は、保険診療の適応を受けていません。
しかし、歯周病や腫瘍が原因で歯茎の変色を生じた場合の治療は、原因の病気の治療は保険診療で受けることができます。
歯茎の変色を起こしやすい歯科用の金属材料は「銀」です。銀は酸化すると黒く変色します。
歯科治療で使われる金属材料の多くに銀は含まれていますので、歯茎の変色を起こす原因となります。なお、貴金属は溶け出しにくいので、金は歯茎の変色の原因になりにくいです。
ケミカルガムピーリングでは、使用するフェノールが健康な歯茎を傷つけ、歯茎が下がることがあります。
レーザーガムピーリングでは、そのようなリスクはほとんどありませんが、効果を感じられるまで何回か繰り返し照射しなければならないことが多いです。
もし、歯茎の変色の原因となる喫煙や口呼吸などの習慣を解消していなければ、再発する可能性が高いです。
ご自身が喫煙する習慣を持っていなくても、周囲の方の喫煙による受動喫煙でも歯茎の変色は起こりますので注意が必要です。
ガムピーリングを受けると、治療後数日間はヒリヒリとした軽い痛みや違和感を感じることがありますが、多くの方は痛み止めの薬を使うことなく過ごしていらっしゃいます。
しばらくすると、ヒリヒリ感も自然になくなっていきますので経過観察となります。