出っ歯(上顎前突)とは
出っ歯は上顎前突と呼ばれる歯列不正で、上顎の前歯が下顎の前歯よりも前に出ている状態です。歯科医学的には、上顎の前歯が下顎の前歯よりも7〜8㎜以上前にあれる状態を上顎前突と診断します。
一言で出っ歯といっても、上顎の前歯が前方に向かって過度に傾いているタイプもあれば、上顎骨自体が前方に大きく成長し過ぎたタイプもあります。前者の奥歯の噛み合わせは正常な場合が多いですが、後者の場合は奥歯の噛み合わせもずれていることが多いです。
出っ歯は前歯部に限った歯列不正ではなく、骨格の異常や奥歯の位置異常を伴うこともある歯列不正です。
出っ歯(上顎前突)の症状とリスク
出っ歯は見た目への影響だけでなく、虫歯や歯周病などの様々な健康悪化のリスクに影響します。
顔つきにも悪影響を与える
出っ歯の症状は、単に歯並びが悪いというだけではありません。顔つきにも影響します。
出っ歯の方は、横から見ると上口唇が上顎の前歯に押されて前方に突出し、下口唇より前に位置しています。このため、鼻の下あたりが前に出た感じの横顔になります。
前歯で食べ物を噛み切れない
人の前歯は、下顎の前歯の切端という先端部分が上顎の前歯の裏側に接触することで、食べ物を噛み切れるようになっています。
出っ歯は、上顎の前歯が下顎の前歯よりも過度に前に出た噛み合わせのため、上顎と下顎の前歯が適切に接触できません。このため、前歯で食べ物を噛み切ることが難しくなります。
ガミースマイルになりやすい
笑ったときに、過度に上顎前歯部の歯肉が露出した状態をガミースマイルといいます。
ガミースマイル自体は、痛みや腫れなどの自覚症状は全くないのですが、口元の審美性に問題があり、社会性に悪影響を与えるケースもみられます。
上顎前歯の生え方の異常や上顎骨の成長発育の過剰により出っ歯になった方は、ガミースマイルになりやすい傾向があります。
外傷による歯の破損のリスク
出っ歯の方は、転倒や衝突によって生じた力が上顎の前歯に強く伝わり、上顎の前歯が欠けたり折れたりするリスクが高まります。
上顎の前歯が下顎の前歯より3㎜以上前に出ていると、そうでない方と比べて上顎の前歯が欠けたり折れたりするリスクが2倍になるという研究結果もあります。
口呼吸による健康悪化
上顎の前歯が過度に前に出ていると、上口唇が前に押され唇が閉じにくくなる傾向があります。唇が閉じにくくなると、口呼吸を生じやすくなります。
本来の鼻呼吸ではなく口呼吸が癖になると、お口が乾燥するほか、風邪やインフルエンザなどの感染症にかかるリスクも高まります。
虫歯や歯周病のリスク
口呼吸をすると口が乾燥するのですが、その理由は唾液の蒸発です。
唾液には、虫歯や歯周病などの細菌の活動を抑える抗菌作用や初期虫歯を治す再石灰化作用、虫歯菌の作り出した酸を中和する緩衝作用などが備わっています。
唾液が蒸発して減少することで、虫歯や歯周病のリスクが高くなります。
口臭のリスク
唾液には、お口の汚れを洗い流す作用もあります。
口臭の原因の大多数は、お口の中の汚れや歯周病などの歯のトラブルと言われています。
蒸発による唾液の減少は、歯周病のリスクを高めるほか、お口の汚れが残りやすくなることで、口臭を生じやすくさせます。
社会性への悪影響
出っ歯の方には、顔の中央付近が突出するという顔つきからのコンプレックスに加え、口臭、虫歯、歯周病などさまざまな症状が見られます。これらの症状は、人前に出ることへの抵抗感を生じさせかねません。
出っ歯は、心理的な影響を人に与えることで、その人の社会性にも悪影響を及ぼします。
出っ歯(上顎前突)の原因
出っ歯の原因は、主に歯、顎骨、不良習癖が挙げられます。
上顎骨の過成長
過成長とは、成長発育し過ぎた状態を指します。すなわち、上顎骨の過成長とは上顎骨の骨格が前方に向かって、成長発育し過ぎたことを意味します。
上顎骨が過成長を起こすと、上顎骨の方が下顎骨よりも大きくなるので、上顎の前歯がより前方にずれることで出っ歯になります。
下顎骨の劣成長
劣成長とは、成長発育が足りない状態を指します。
下顎骨の成長発育が足りないと、上顎骨に対して下顎骨が小さくなってしまいます。この結果、下顎の前歯の位置が上顎の前歯よりも後ろとなり、出っ歯になります。
下顎骨の位置異常
下顎骨のサイズに異常がなくても、下顎骨そのものが後方に下がっていると、相対的に上顎骨が前に位置してしまいます。すると、上顎の前歯部が下顎のそれよりも前に位置することになり、出っ歯になってしまいます。
出っ歯の原因を見ると、下顎の劣成長や下顎の位置異常の方が、上顎骨の過成長よりも多い傾向があります。
不良習癖
指をしゃぶる、爪を噛む、口呼吸などの癖があると、上顎の前歯が前方に向かって傾きます。このため、出っ歯になってしまいます。
歯並びを悪くする癖を不良習癖といいます。もし、こうした癖が身についているなら、歯並びが悪くならないように、早めに癖を解消しましょう。
鼻詰まりを伴う病気
アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎など、鼻詰まりを認める病気の方は鼻呼吸ができない、もしくは難しいため口呼吸をします。
歯並びは、唇や頬が外から歯を押さえる力と、舌が内側から押す力のバランスの上に成立しています。
口呼吸を長期に渡って続けていると、唇が歯を外側から押さえられなくなり、上顎の前歯が前方に向かって傾き、出っ歯になります。
噛み合わせ
出っ歯の中には、上下の歯を噛み合わせていないときには、出っ歯ではないのに、奥歯で噛み合わせると下顎が後ろの移動し、出っ歯になるというタイプがあります。
このタイプを、噛み合わせたとき、すなわち歯が持っている噛み合わせという機能が発揮されたときだけに生じる上顎前突症という意味で、機能生上顎前突症といいます。
出っ歯(上顎前突)の治療
出っ歯の治療法は、歯を移動させて治す方法のほか、被せて治す方法などさまざまです。
ワイヤー矯正・マルチブラケット矯正
ワイヤー矯正は、歯の表面にブラケットという金具を接着し、ブラケットの溝を利用して弾性ワイヤーを通し、このワイヤーの働きで歯を移動させ、歯並びを整えます。
一般的に矯正治療としてイメージされることの多い矯正治療法です。
ほぼ全ての歯列不正に適用できる反面、目立ちやすい、食事や歯磨きがしにくいなどのデメリットもあります。
マウスピース矯正
マウスピース矯正は、マウスピースを矯正装置として利用する矯正治療法です。マウスピースを定期的に新しいものに交換することで、歯を移動させていきます。
マウスピースはご自身で外して食事や歯磨きができ、マウスピースも薄く透明度も高いので目立ちにくいのが利点です。ただし、マウスピースをつけ忘れたり、無くしてしまったりすると、矯正治療の効果が得られないのが難点です。
インプラント矯正
インプラント矯正とは、歯科矯正用アンカースクリューという小さなネジのような形をした矯正器具を顎の骨に埋め込み、ここを支えにして歯を移動させる矯正治療です。
出過ぎた歯を顎の骨の方向に押し下げる歯の移動法を圧下といいますが、通常の矯正治療では圧下という動きはとても困難です。インプラント矯正なら、アンカースクリューが強い支えになるので、上顎前歯部全体を圧下させることも可能です。
上顎前歯が生え過ぎている、骨格が成長し過ぎているような出っ歯では、一般的な矯正治療以上に出っ歯を効率的に改善できます。
MTM矯正
MTM矯正は、Minor Tooth Movementの略で、1〜数本の歯のみを移動させる部分的な矯正治療です。1〜2本程度の前歯が前方に傾いていて、その他の歯に異常がないような場合などに選ばれます。
他の歯を移動させないため適応できる症例は限られますが、治療期間が短い、歯並び全体を整えるよりは治療費を抑えられるなどの利点もあります。
顎矯正手術
顎矯正手術は上顎骨の成長発育過剰など、骨格の原因により出っ歯になった場合に選ばれる治療法です。
上顎骨の場合は、ル・フォーⅠ型骨切り術、もしくは上顎前歯部歯槽骨骨切り術により、上顎前歯部を後方に下げて出っ歯の改善を図ります。下顎骨の異常も認める場合は、同時に下顎枝矢状分割術(SSRO)、下顎枝垂直分割術(IVRO)という下顎骨の骨切り手術も行うこともあります。
なお、顎矯正手術の前後には歯列矯正を行なって、手術後にきちんと噛み合わせられるようにします。
セラミック矯正
歯を移動させることなくセラミッククラウンを被せることで、歯の形や向きを整える矯正治療法です。歯を移動させる歯列矯正に対し、セラミック矯正は補綴矯正と呼ばれています。
セラミック矯正は、歯型を採った次の段階でセラミッククラウンを装着して治療が終わるため治療期間が短く、歯の形だけでなく色も整えられるのが利点です。一方、歯を削らなくてはならないため、歯の傾きによっては術後に疼痛が発現する可能性があります。
セラミッククラウン
前歯部全体の歯並びを整えるのではなく、前方に傾いている前歯だけを治したいなら、その歯だけをセラミッククラウンで被せて形を整えるという方法もあります。
セラミッククラウンを被せる本数が限定されるため治療費を抑えられますが、前歯全体がきれいにならないのが難点です。
出っ歯(上顎前突)のよくある質問
理想的な噛み合わせを正常咬合と言います。
正常咬合の方と出っ歯の方を比較すると、正常咬合の方のほうがよりしっかりと食べ物を噛めますから、出っ歯の方は噛む効率が低いです。したがって、食べ物をしっかりと噛めるようにするためにも、出っ歯は改善した方が良いでしょう。
出っ歯すなわち上顎前突症は、上顎の前歯の位置や傾きだけが問題とは限りません。
上顎の骨格が成長しすぎた結果、出っ歯になっていることもあれば、下顎骨の成長発育が足りないために出っ歯になることもあります。もちろん、上顎骨の過成長と下顎骨の成長不足の両方ということも珍しくありません。
出っ歯は上顎の歯列不正ですが、下顎の骨格も関係しています。
出っ歯の矯正治療は大人になってからでも遅くありませんが、子供のうちに気がついたなら、幼少期から治療を開始するとより効果的に治せます。
子供の骨格は成長途上にあり、大人と比べて柔軟性が高いため、幼少期から矯正治療を受けていると、理想的な上顎骨と下顎骨の位置関係や顎の骨格や歯の位置、向きに馴染みやすいからです。
上顎の奥歯の後方への移動は、出っ歯の治療に有効です。
ただし、上顎の奥歯の後方への移動距離は平均して3㎜もなく、移動量は多いとは言えません。このため、出っ歯の治療にあたっては、奥歯を後ろに移動させるだけでなく、その他の方法も併せて検討しておくほうが良いとされています。
出っ歯、すなわち上顎前突症が直接的な原因となって、顎関節症を引き起こすという報告はありません。同様に歯ぎしり症を引き起こすという、強い科学的な根拠にも乏しいです。
出っ歯という歯列不正は、顎関節症や歯ぎしり症の直接的な要因はないと考えられています。