すきっ歯(空隙歯列)とは
すきっ歯とは、歯科医学的には空隙歯列と呼ばれる歯列不正の一種で、英語ではspaced arch(スペースのある歯並び)といいます。
ただし、歯並びに隙間があれば全てが、すきっ歯というわけではありません。なぜなら、実はすきっ歯、すなわち空隙歯列は、歯と歯の間に多数の隙間が存在する歯並びを指しており、隙間の数が1箇所だけは、すきっ歯とは認められないからです。
すきっ歯は、歯が足りない、顎が大きい、歯が小さいなどさまざまな原因が元で起き、これにより見た目、空発音、食事などの問題を引き起こします。すきっ歯の状態を放置すると、歯が自由に動ける状態が続き、咬み合わせが変わってしまうリスクも生じます。
すきっ歯の症状とリスク
すきっ歯は、見た目のみならず、さまざまな病気や症状を引き起こすリスク要因となります。
外見への影響
歯並びに隙間が多いと、歯並びの見た目が悪くなってしまいます。
歯並びは、お顔の印象に強い影響を与えますので、隙間が多い歯並びのままでいると、お顔の見た目にも悪影響を及ぼします。
虫歯や歯周病の発症リスク
虫歯や歯周病は、虫歯菌や歯周病菌などの細菌が引き起こす病気です。これらの細菌は、歯の表面についているプラークという白いカスの中に潜んでいます。歯磨きでプラークを取り除くことが大切とされるのはこのためです。
隙間が多い歯並びは、歯みがきの効率が悪くなり、プラークをきれいに取り除くことが困難です。このため、すきっ歯は虫歯や歯周病のリスクが高まります。
発音の不明瞭化
人は舌や唇、頬を使って、お口の形や容積を変形させて声を作り出しています。
歯、特に上顎の歯に隙間が多いと、空気がそこから漏れるため、舌や唇を上手に動かしても、はっきりした声を出すことが難しくなります。したがって、すきっ歯は、発音にも悪影響を及ぼします。
しっかりと物を噛めない
人の歯は、前歯は食べ物を噛み切る、奥歯は食べ物を擦り潰す役割を担っています。食べ物を噛むときは、舌や頬を使って食べ物を歯の上に運んで、前歯や奥歯で食べ物を噛み砕きます。
歯並びに隙間が多いと、歯の上に食べ物を効率よく乗せることができなくなるため、しっかりと物を噛めなくなってしまいます。
口臭のリスク
口臭の原因のほとんどは、磨き残しなどお口の中の汚れです。お口の汚れを細菌が栄養源として分解し、ニオイを伴うガスを作り出すからです。
すきっ歯で歯磨きが難しくなれば、磨き残しも増えるため、口臭を引き起こす可能性が高まります。
消化器官の不調
食べた物は胃腸で消化・吸収されます。
食べ物を歯で噛むことで小さくすると同時に、やわらかくして消化しやすくします。すきっ歯の影響からしっかり噛めなくなってしまうと、食べ物を消化しやすい形にすることができなくなります。
食べ物を大きいまま、または硬いまま飲み込むことで、胃腸は消化の負担が増し、胃腸の不調の原因になります。
顎関節症の発症リスク
すきっ歯のままでは、どうしても噛み合わせが悪くなってしまいます。噛み合わせが悪い状態でいると、食べ物をしっかり噛むために咀嚼筋という下顎骨を動かす筋肉に負担がかかります。
顎の動かし方にも影響すれば顎関節に加わる負荷が増し、顎が痛くなったり、お口を開けづらくなったりします。こうしたことから、すきっ歯は顎関節症を引き起こすリスク要因となります。
精神的な影響
すきっ歯に限らず、前歯や口元は目につきやすいところなため、顔つきに影響を与えます。
日本では、すきっ歯は歯の隙間から幸せが逃げるという見方をする人もいるようで、ネガティブに捉えられがちです。このため、すきっ歯の方の中には、ご自身の顔つきにコンプレックスを感じるようなケースも見られます。
すきっ歯の原因
すきっ歯の多くは、弓型をした顎の大きさと、そこに収まる歯の大きさ、もしくは歯の数の不一致が原因です。
顎の大きさと歯の大きさがアンバランス
顎の骨と歯並びを考えるとき、顎の大きさと全ての歯の横幅を合計した値を比較します。合計値がぴったり合えば、歯はきれいに並びます。もし、顎の骨格の方が歯の横幅の合計値より大きければ、歯並びに隙間が生まれます。
具体的には、顎の骨格が大きいけれど、歯の大きさが標準的、もしくは小さい場合、もしくは、顎の骨格の大きさは標準的な大きさだけれども、歯の大きさが小さすぎる場合などです。このように、顎の骨格の大きさと歯の大きさのバランスが取れていないと、すきっ歯となり得ます。
不良習癖
歯の位置関係には、お口に関係するさまざまな癖も影響します。歯並びを悪くする癖を不良習癖といい、中でも多いのが、舌の癖である舌癖です。
舌を前に伸ばす舌突出癖があると、前歯が前方に傾き、前歯部の歯と歯の間が開き、すきっ歯になります。
低位舌という舌先が下がっている状態も、下顎の前歯を前方に押すのですきっ歯の原因のひとつです。また、指しゃぶりをする癖が残ったままになっていると、上顎の前歯が唇側(外側)に向かって押してしまうので、前歯が開き、すきっ歯となってしまいます。
巨舌症
巨舌症は、舌のサイズが標準よりも大きくなる病気です。
舌は上顎と下顎の歯の間に収まるべきなのですが、舌が大きいと歯の内側の空間に収まりきれません。すると、舌が歯を内側から押してしまいます。この結果、歯並びが広がり、すきっ歯となります。
歯の先天性欠如
歯の先天性欠如とは、生まれつき、歯の本数が正常よりも少ない状態のことです。10人に1人ほどの頻度でみられるので、決して珍しいことではありません。乳歯にはほとんどみられませんが、永久歯ではしばしばみられ、前から2番目の側切歯や5番目の第二小臼歯の先天性欠如が多いです。
歯が足りないと、歯の横幅の合計値が小さくなるため、歯が並ぶべきスペースが過剰になり、すきっ歯になります。
歯の奇形
歯にもさまざまな奇形があります。
すきっ歯に関係する奇形としては、矮小歯という歯のサイズが小さい奇形が挙げられます。歯の形そのままに小さくなっていることもあれば、歯の形が円錐形になる円錐歯、円筒形になる円筒歯ということもあります。
いずれにしても、歯が小さいことには変わりないので、その部分の歯の横幅が足りなくなり、歯並びに隙間が生じることになります。
すきっ歯の治療方法
すきっ歯の治療法は、歯列矯正、補綴矯正など、さまざまな治療法があります。
それぞれに特徴があるため、ご自身に適した方法を選ぶことが大切です。
ワイヤー矯正・マルチブラケット矯正
ワイヤー矯正は、歯の表面につけたブラケットという金具とそこにある溝を利用して弾性ワイヤーを通し、このワイヤーの弾力性で歯を移動させる矯正治療です。マルチブラケット矯正ということもあります。
ほぼすべての歯列不正を改善できるほどの適応症の広さが、ワイヤー矯正の利点です。その反面、矯正中は装置が目立ちやすい、食事や歯磨きがしにくいという難点もあります。
マウスピース矯正
マウスピース矯正は、マウスピースを矯正装置として利用する矯正治療です。
マウスピースは、とても薄く、そして透明度が高いうえ、歯にピッタリとフィットするため、付けていても一見するだけではわからないほど目立ちにくいのが利点です。
このマウスピースを歯の移動に合わせて、定期的に新しいものに交換することで、理想的な歯並びを目指します。
食事や歯磨きのときはご自身で外せるためとても便利ですが、付け忘れると矯正治療の効果が得られません。
インプラント矯正
インプラント矯正は、歯科用アンカースクリューという小さなネジタイプのインプラントを顎に設置し、これにゴムをかけて歯を移動させる矯正治療法です。マルチブラケット矯正やマウスピース矯正と組み合わせて、歯並びを整えます。
アンカースクリューがしっかりとした固定源となるため、歯を効率的に移動させられ、治療期間の短縮が望めるなどの利点があります。
MTM矯正
MTMとは、Minor Tooth Movementを略した言葉で、1本ないし数本の歯の移動を目的とした矯正治療です。このため、MTM矯正は部分矯正の一種とされています。
移動させる歯が少ないため、治療期間が短く、治療費も歯並び全体の矯正治療と比べると低く抑えられています。
適応によりますが、歯並びの隙間の数が少ない場合はMTM矯正で改善させるのもひとつの方法です。
セラミック矯正
セラミック矯正は、セラミッククラウンの形や大きさを合わせることで、歯並びをきれいに見せる矯正治療です。歯を移動させないため、補綴矯正という分類がなされています。
すきっ歯治療に応用すると、歯と歯の間の隙間を埋めるようなセラミッククラウンを入れることで、隙間を解消します。
一般的な矯正治療と比べると、歯を削って被せるだけなので治療期間が短く、歯の色も同時に改善できるのが利点ですが、歯を削らなければならないところが難点です。
ダイレクトボンディング
ダイレクトボンディングは、コンポジットレジンという歯の色に合わせて作られたプラスチック材料で、歯の隙間を埋める処置です。
歯の隣り合う面を隣接面と言いますが、歯と歯の隙間の両隣の歯の隣接面にコンポジットレジンを盛り上げることで、隙間を解消させます。
歯の色に合わせてあるため、目立ちにくく、1日で治療が完了するのが利点ですが、隙間が大きすぎる場合には使いづらいのが難点です。
ラミネートベニア
ラミネートベニアは、歯の表面を薄く削り、そこに薄く作られたセラミックのカバーを歯に接着する治療法です。
歯を削ると言っても、歯の表面を覆うエナメル質のごく一部に留め、歯の色も同時に合わせることもできます。しかし、噛み合わせの力に弱いため、噛み合う面には使えないのが難点です。
セラミッククラウン
セラミッククラウンは、セラミック製の被せ物の総称です。
すべてセラミックで作られたオールセラミッククラウンと、内側を金属で補強したメタルボンドとも呼ばれる陶材焼付鋳造冠に分けられます。
セラミック矯正で使う場合と違い、歯と歯の隙間を埋めることだけを目的とし、上下の歯の並びなどまで整えるわけではありません。
すきっ歯のよくある質問
永久歯の歯並びに生え変わって、隙間が残ったままになっているのであれば、矯正歯科で一度相談されることをおすすめします。
すきっ歯の治療は保険診療の対象外です。
顎変形症や唇顎口蓋裂など限られた症例を除き、歯列矯正は保険診療の対象にはなりません。
上顎の真ん中の歯を中切歯といいますが、正中離開とは左右の中切歯の隙間のことです。
すきっ歯、すなわち空隙歯列は歯並びに複数の隙間がある状態を指すので、正中離開一箇所だけでは厳密にはすきっ歯には含まれません。
乳歯の歯並びの隙間は発育空隙と呼ばれ、乳歯よりサイズが大きい永久歯が生えるために必要な隙間です。したがって、乳歯に隙間があるのは治療する必要はありません。
上顎の真ん中の歯を中切歯といいます。
右の中切歯は右寄りに、左の中切歯は左寄りに生えてきますので、生えた当初は隙間があるのが普通です。中切歯の隣の側切歯という歯が生えてきて、真ん中に向かって押すことで隙間がなくなります。
側切歯が生えても隙間が残っているなら正中離開の可能性が高いので、矯正歯科でご相談ください。
歯の位置はずっと同じではなく、意識しないだけで実は少しずつ変わっています。
舌の癖や歯ぎしりのような噛み合わせの癖で動くこともあれば、歯周病で歯が弱くなり動くこともあります。
もし、歯並びが変わってきたと思ったのなら、何らかの原因が隠れている可能性があるので、まずは矯正歯科で相談されるといいでしょう。