歯の着色(黄ばみ)・変色について
日本人の永久歯は、少し黄色味がかった白さです。ところが、常に同じ白さというわけではありません。
歯の色調は、外的要因や内的要因によって変化します。
一般的に外的要因による歯の色調の変化を着色、もしくは黄ばみ、内的要因による歯の色調の変化を変色と呼び、いずれも、その症状は多岐に渡ります。
歯の色調の変化は、人の第一印象を左右する口元にも大きな影響を与えるため、原因や症状に応じたさまざまな治療法が開発されています。
歯の着色(黄ばみ)の原因と症状(リスク)
歯の着色汚れは、歯面に付着した色素成分などにより生じたもので、ステインとも呼ばれます。
飲食物
歯の着色汚れの原因で多いのが飲食物です。
飲食物に含まれるポリフェノールなどの色素成分が、歯面を被覆しているペリクルというタンパク質と結合することで生じます。
飲食物による着色汚れは、歯面に黄色みがかったくすみを認めます。
喫煙
タバコを吸うと、煙に含まれるヤニが口腔内に充満します。ヤニとペリクルが結合することで、歯の表面にヤニによる黄ばみが沈着します。
飲食物の着色汚れと異なり、タバコの着色汚れには粘着性があるため、タバコのヤニのほか、飲食物の着色汚れの付着を助長します。
ブラウンマージン
齲蝕治療で用いられる歯科材料のひとつに、コンポジットレジンというプラスチック材料があります。
コンポジットレジンを充填し年月が経つと、コンポジットレジンと歯面の境界付近に茶色いラインが生じることがあります。これをブラウンマージンといいます。
コンポジットレジンの縁が摩耗したり、欠けたりすることで生じた段差に飲食物に含まれる色素成分が沈着することによって生じます。
歯の変色の原因と症状(リスク)
歯が内面から変色を生じる原因は多く、症状も原因によって異なります。
齲蝕症
齲蝕症は、ストレプトコッカス・ミュータンスに代表されるレンサ球菌が産生する乳酸により、歯が脱灰されていく病気です。
齲蝕症の初期では、歯に光沢のない白色斑が出現します。虫歯の穴である齲窩が生じるようになると、茶褐色や黒色の色調の変化が生じます。
無髄歯・失活歯
歯髄が生活反応を示さなくなった歯や根管治療を経験した歯を無髄歯、失活歯などと言います。
血液には、鉄分を含んだヘモグロビンが含まれています。そして、歯の内部には象牙細管という非常に微細な管が縦横に走っています。この象牙細管の中に血液中に含まれる鉄分が入り込んでも、無髄歯や失活歯は血流がないので排除されることがありません。
象牙細管の中に入り込んだ鉄分が酸化して変色することで、無髄歯や失活歯は暗褐色な色調に変色します。
歯髄出血
転倒や衝突などにより歯が外力を強く受けた場合、歯の内部で歯髄から出血することがあります。歯髄出血を生じると、唇面に赤色が浮かび上がってきます。
歯牙フッ素症
歯牙フッ素症は、歯のエナメル質の形成時期に、1〜2ppm以上のフッ素を長期に及び体内に摂取したことによって生じる、エナメル質の形成不全症や石灰化不全症です。斑状歯とも呼ばれており、フッ素の慢性中毒症のひとつとして知られています。
歯面に左右対称の水平的な斑点状や縞状の白色、もしくは褐色の着色を認めます。
テトラサイクリンの副作用
テトラサイクリンは、テトラサイクリン系に分類される抗菌薬です。
歯が形成される0〜12歳ごろにテトラサイクリンを摂取すると、象牙質のカルシウムとテトラサイクリンが結合し、象牙質に色素変化をきたします。
具体的には、歯の色調が灰色っぽくなったり、歯面に暗い縞模様が現れたりします。
エナメル質形成不全症
エナメル質形成不全症は、歯の形成時期に何らかの原因によってエナメル質が正常に形成されない状態で、エナメル質減形成とエナメル質石灰化不全に分けられます。
エナメル質減形成では、エナメル質の厚みが薄くなったり、部分的に欠損したりするので、象牙質の黄色みが強く現れた歯になります。エナメル質石灰化不全では、歯面に白濁斑や黄斑、褐色斑が現れます。
コンポジットレジンの変色
コンポジットレジンは、ベースレジンとフィラーという粉末成分を主成分としています。
口腔内は、唾液により湿潤した環境になっているため、コンポジットレジンには徐々に水分が浸透しますが、このときベースレジンとフィラーの結合が脆弱化します。また、ベースレジンが紫外線を受けるとポリマー構造が変化します。
こうした変化により、コンポジットレジンの色調が徐々に黄色みがかってきます。
加齢による変色
歯の外層であるエナメル質の色調は半透明の白色ですが、内部の象牙質は黄色みがかった色調を呈しています。加齢とともにエナメル質が摩耗して菲薄化すると、内部の象牙質の黄色みが透けやすくなるので歯が黄色く変色します。
歯の着色(黄ばみ)・変色の治療
現在、行われている歯の着色や変色歯の治療法についてご紹介します。
PMTC
PMTCは、Professional Mechanical Tooth Cleaningの略で、歯科医療者が専用の器械を使って歯をクリーニングする処置です。
研磨剤が含まれたペースト材料を使って歯の表面を磨くので、歯の表面についた着色汚れが取り除かれ、歯の黄ばみが解消できます。
ホームホワイトニング
ホワイトニングは、薬剤を使って歯の表面を漂白して変色歯を改善させる処置です。その中でも、自宅で行うホームホワイトニングがあります。
歯科医院で製作したマウストレーにジェル状のホワイトニング剤を注入して、一定の時間歯に作用させます。ホームホワイトニングは、即効性は低いのですが、ホワイトニング効果が長期にわたって持続する利点があります。
オフィスホワイトニング
オフィスホワイトニングは、歯科医院で行うホワイトニングです。
歯科医院で行うため、色斑が生じにくく、施術前に歯のクリーニングも受けられるのが利点です。
オフィスホワイトニングは、効果が出るのが早いという利点もありますが、ホームホワイトニングと比べると後戻りを起こしやすい傾向があります。
デュアルホワイトニング
デュアルホワイトニングは、ホームホワイトニングとオフィスホワイトニングを同時に行うホワイトニングです。
ホームホワイトニングのホワイトニング効果の持続性と、オフィスホワイトニングの即効性という両者の利点を同時に得られます。
ウォーキングブリーチ
ウォーキングブリーチは、失活歯を対象としたホワイトニングです。歯髄が存在していた根管内に薬剤を注入し、歯の内部から歯を漂白して白くします。
ウォーキングブリーチでは薬剤を根管内に作用させるため、歯髄に異常がみられない生活歯には適応できません。
ポーセレンラミネートベニア
ポーセレンラミネートベニアは、歯の唇側面のエナメル質を薄く広く削合し、各個調整した薄いポーセレンを歯に接着する治療法です。
歯の色調や形態の改善が可能な反面、接着力に依存するため、形成面の60%以上が健全歯面であること、できる限りエナメル質であることなどが求められます。また歯の配列は正常であることが大原則で、傾斜や位置異常の改善には使えません。
ノンプレップベニア
ノンプレップベニアは歯の唇側面を削合せず、そのまま各個調整した薄いポーセレンを歯に接着する治療法です。
歯を削合せずに色調や形態を改善できるのが利点ですが、歯の上にポーセレンを接着するので、歯の外観が大きくなりやすいのが難点です。
ノンプレップベニア(削らないラミネートベニア)の詳細はこちら
ジルコニア・オールセラミッククラウン
オールセラミッククラウンは、セラミック系材料だけで作られたクラウンです。
ジルコニア・オールセラミッククラウンは、外層を構成しているポーセレンの内面をジルコニアというセラミックで補強しています。
セラミックで作られているので、光沢感や色調が天然歯にとても近似しているのが利点です。広範囲に及ぶ歯の変色や形態異常を伴う変色歯では、セラミッククラウンによる改善も有効です。
e-max
e-maxは二ケイ酸リチウムガラスセラミックという、セラミック材料で作られたセラミッククラウンです。ジルコニア・オールセラミッククラウンと異なり、すべてニケイ酸リチウムガラスセラミックで作られています。
ガラス系のセラミック材料なので透明度が高い上、硬度も歯に近く、対合歯を傷めにくいのが利点です。
ホワイトコート
ホワイトコートは、歯面に白色のコーティング剤を塗布する処置です。
歯面に直接コーティング剤を塗布するので印象採得の必要がなく、即日で処置が完了する、剥がせば元に戻るというところが利点です。一方、厚くなりやすい、1〜3か月程度で脱離する、咬合面には塗布できないなどの難点もあります。
コンポジットレジン充填
コンポジットレジン充填は、接着性のある光硬化型コンポジットレジンを使って充填する処置です。
コンポジットレジンの劣化による黄ばみに対しては、古くなったコンポジットレジンを除去し、新しくコンポジットレジンを充填するのが有効です。
コンポジットレジン充填(ハイブリッドタイプ)
コンポジットレジンの中には、成分のフィラーにセラミック系の粉末材料を使ったタイプがあります。
セラミックを配合したタイプはハイブリッドタイプとも呼ばれ、一般的なコンポジットレジンよりも天然歯に似た色調や光沢感が得られるのが特徴です。
コンポジットレジン充填(ダイレクトボンディング)の詳細はこちら
ブラッシング指導
歯面の着色汚れに対しては、ブラッシングによるセルフケアもある程度効果があります。
配合研磨剤などに特徴のあるホワイトニング用歯磨き剤や、ステイン除去モードの搭載されている電動歯ブラシを使ってブラッシングすることで着色汚れを除去します。
歯科医院では、各自に適した歯ブラシや歯間ブラシ、デンタルフロス、歯磨き剤などを提案し、最適な治療法を説明しています。
歯の着色(黄ばみ)・変色の治療方法のよくある質問
残念ながら、歯の黄ばみは食べ物や飲み物も原因になるので、完全に防ぐことはできません。ご自身できれいにするのは難しいので、定期的に歯科医院できれいに取り除いてもらうことをおすすめします。
歯の黄ばみなら表面の着色だけなので、歯の健康面での心配はありません。
変色については、そうではありません。中には、虫歯による変色や気づかないうちに、歯の神経にダメージを負って生じた変色もあります。これらは、歯の健康上の問題となりますので治療が必要です。
虫歯や失活歯などによる歯の変色の治療を、コンポジットレジンというプラスチック材料を使って受けるのであれば、保険診療で受けられます。
しかし、審美性の高いセラミック系の材料を使った治療やホワイトニング、ホワイトコートについては、保険診療の適応外です。
歯の色が暗くなってきたのであれば、歯の神経が死んでしまっている可能性があります。放置していると、歯の根の先に膿が溜まり、腫れたり痛くなったりする原因になりますので、早めに歯科医院で診てもらうことをおすすめします。
変色歯は、歯そのものの色が変わった状態です。
歯のクリーニングできれいになるのは、歯の表面についた汚れ、すなわち着色汚れだけです。したがって、変色歯を歯のクリーニングできれいにすることは難しいです。ホワイトニングなど、そのほかの治療法をご検討ください。